いいルーソの日

 春はルーソ。
 やうやう白き山のような白足袋、玉肌ひかりて、折り曲げたるスカートの細いプリーツたなびきたる



 枕草子で清少納言が絶対に詠んでいないような情緒もへったくれのない句。そんな句が脳内で右から左へと流れていきながら、寿少納言……もとい三井寿は、目の前に差し出された厚手の白くて長すぎる靴下と、真顔すら美しい二つ年下の後輩の顔を前に「……で?」と返した。


「……何だよコレ」
「ルーズソックス」
「んなこたァ分かってんだよ!そういことじゃなくてよ……」

 流川楓よりも、最近のIoTだかのハイテク家電のほうが流暢に日本語を喋るのではないかと、三井は最近こっそりと思っている。Siriやアレクサのほうが冗談も上手く言えるのでは?とか。まあ、そんなことは今どうでもいいのだ。


 いつも通り、流川の単語だけの会話に小さく溜息をつきながら、三井はなんだかデジャブを感じていた。
この感じ……なんだか覚えがある……。この流れ、そうだ、あの時だ。前にニーハイソックスを差し出された時と全く同じシチュエーションになっていないだろうか……?


 三井は遠い目をした。あれはひどかった。何がこの十五歳の琴線に触れたのかは分からないが、とにかく忘れてしまいたい記憶の中に殿堂入りした。
 最後は自分もまあまあ盛り上がってしまった覚えがあるのでより一層恥ずかしくて穴があったら入りたい気持ちなのだ。前に宮城に「三井サンが穴掘ったら地球の裏まで行ってブラジルに出ちまうんじゃないですか?」と揶揄われた事も数珠つなぎの如く、一緒に思い出してしまった。


 嗚呼、全部忘れたい。Mildも地球の裏側じゃWildになるんじゃなかっただろうか。とある男性アイドルグループのデビュー曲の歌詞が頭をよぎった。ならブラジルまで掘ったらこの忘れたい記憶も良い思い出になるんだろうか。いやそんなことあるわけないだろ。

 脳内でサンバカーニバルのごとく大騒ぎしている思考回路を遮るように、流川がルーズソックスをより一層、ぐいっと近づけてきた。近づけられた分、三井が顎を引いて距離を取る。
 一進一退の攻防に、流川の顔は真剣そのものだ。そんなワンオン中みたいな集中力を今、こんなシーンで発揮すべき時ではないことくらい、小学生でも分かる。
 こうやって無言を突き通していても、流川とにらめっこをしていても埒があかない。三井は大きくわざとらしく長く大きな溜息をついた。降参である。

「オレが聞いてんのは、コレがルーズソックスかどうかってコトじゃなくて、なんでそんなモンをお前が今、ここで持ってて、オレに突きつけてんのかってコトなんだけど?」
「……姉貴がくれた」
「またかよ!」


 三井が間髪おかずにそう言うと、精巧な作りをした切れ長の瞳が一瞬だけ気まずそうに逸らされた。
 ん?何かおかしいな……。
 三井はピンときた。伊達に毎日この男とワンオンワンをしていない。目線のフェイク、ブラフ……この十五歳の少年のそれらはすべて三井の頭の中に入っている。この反応は……おそらく『ウソ』だ。


 今回は姉貴に貰ったわけじゃない。それなのにこの目の前の男は『ウソ』をついている。『ウソ』をついてまで自分にルーズソックスを履かせたい理由は全く分からないが、流川がこれを自分に履かせたい熱量だけはひしひしと感じ取れる。

 前のニーハイで何かこの男に『芽生え』が生まれてしまったんだろうか。前のニーハイは偶然貰ったから……の産物だったが、これはどう見ても流川自身が能動的にルーズソックスを手に入れたとしか思えない。

 前述した、『ウソ』をついてまで自分にルーズソックスを履かせたい理由、それはつまり……恋人にフェチなものを履かせたい――。

 年相応な十代の思春期を爆進しているらしい目の前の男に対して、三井の中にも愛おしさと面白さが二倍になって襲いかかってくる。んぐ、……っと少しだけ声が出てしまって、急いで顔を伏せた。

「センパイ?」
「ん?んん~~むぅ~~どうすっかなあ~」


 三井はこみ上げてくる笑いを必死に喉元でこらえて、顔を下に向けて腕を組みながら、わざと困惑している様子を突き通した。

「んん~困ったなあ~姉ちゃんに貰ったんなら捨てるわけにもいかねえよなあ~」
「……うん」
「お前もニーハイのときみてぇに、コイビトに履いて貰った。喜んでたって姉ちゃんに言わねえといけねえだろうしよぉ~」
「センパイ、今日はモノワカリがいーんすね」


 心なしか嬉しそうな声色に、ぐっと腹筋で吹き出しそうになる声を押しとどめる。こんなにわかりやすい男だっただろうか、こいつは。あまりにも可愛いではないか。


「まあ~履くだけならなあ~減るわけでもねえし~」
「……履くだけなら?」

 ずいっと流川の顔が寄ってくる。近い、近すぎる。でも嫌なわけではない。三井だって、この男を好ましく思っているのだから、満更ではないのだ。ニーハイのときだって、恥ずかしかったけど別にイヤじゃなかったし、なんだかんだいって盛り上がったし……自分も気持ちよくてヨかったような気もする。MildもコロッとWildになるように、記憶というモノは臨機応変に都合の良いように書き換えられていくらしい。

 つらつらと前置きのように言い訳を並べてしまったが、今この状況下で、三井はルーズソックスを履いて『あわよくば』少しだけ『いやらしいこと』をしてきてもまあ『許してやる』という気持ちまでノっているのだった。

「んん~どうしよっかなあ~」
「………………」
「まあ~でもなあ~ルーズソックス、履いてやるしかねえかぁ~仕方ねえなあ~?」
「ウス」

 こんなにも喜色がこもった『ウス』の声が出せるのだと、三井は語り部のように一生、この男をからかっていくネタにすると決めたのだった。

□□□




「いや、また……この格好になるとは思ってたけどよ……」
「……?」
「なんつーか、この屈辱感みたいなの……忘れてたっつーか……」
「……???」

 ベッドの上。首をかしげる流川を横目に、三井は窓ガラスにうっすらと反射する自分の姿を見て、こっちこそ首をかしげたいと真摯に思った。上は学ランとシャツを羽織ったまま。下の黒のスラックスだけ取り払われ、灰色のボクサーパンツは丸見えになっている。
 履いていたくるぶしソックスの代わりに、波のようにたゆたう白い靴下が自らの膝から下を覆っている。

 ほんの十分前までの、謎にやる気だった自分を三井は心の中で叱咤した。馬鹿野郎。やっぱりこんなの男が履いて何がフェチだっていうんだ。ニーハイを履かされたときだって同じ事を思ったくせに、またお前は同じ過ちを……。


 嗚呼三井、もっと自分を、顧みろ。三井が自省の句を脳内で詠んでいるとも知らず、流川の表情は心なしか晴れやかだ。ベッドであぐらを組んで顔をしかめている二つ年上の男の膝に、そっと手を置く。


「っ、何……」
「センパイ、似合ってる」
「似合ってても嬉しくねえんだけどな……」

 流川自身は非常に満足そうな様子で、すりすりと三井の左膝をさすっている。ぴくり、と三井の肩が震えた。悟られないように、やんわりと横を向いて小さく息を吐く。それを見透かすがごとく、流川の左手が三井の腰に回った。


「……センパイ」
「っ、……」

 左膝を撫でる仕草は、この男の『抱きたい』という合図だと分かったのはここ最近のことだ。自らの左膝をなでる癖。それが他人からもたらされるだけで、こんなにも肌がざわめく。いや、他人ではなく、流川だから……なのかもしれないが。


 流川の大きな手のひらで自分の一番弱い部分をさすられるたび、すべてをこの男に許してしまっている自分に気づいてしまう。
 肉体的だけでなく、精神的にも。ニーハイだ、ルーズソックスだと無理難題を押しつけてきても、なんだかんだで許してしまう。結局ほだされてしまうのは自分で、それがこの年下の男に若干増長させている気もしなくはないが、結局の所……そういうコイツのことが可愛いのだから仕方が無いのだ。

 腰に回されていた流川の手が、背中をつたって上へと上がってくる。後頭部までたどり着いた手のひらで、短く切りそろえられた甘栗色の髪をなぞられる。
 ぞわりと痺れたような震えが、三井の背筋を伝った。ゆっくりと目をつむってやると、待ってましたとばかりに唇にやわいものが押しつけられる。そこにまだ若干の情緒と余裕がないが、まあ及第点をやってもいい。
 最初は触れあうだけだったそれは、少しずつ湿り気を帯びたものに変わる。流川の薄い舌が、三井の歯列を割って中へと入り込んでくる。するりと前歯をくすぐられるように舐められて、思わず小さく笑い声が混じった吐息が漏れた。


「ん、ふっ……ん、ん……」


 あぐらを組んでいた膝をゆるりと開かされる。唇を重ねたまま、後ろに体重をかけられた三井の身体は背中からマットレスに押しつけられる。二人分の体重が、ベッドのスプリングを小さく揺らした。
 学ランはそのままに、中に着ていた白いカッターシャツのボタンを外される。すべて外し終えると、流川が三井の鎖骨のあたりに額をぐりぐりと押しつけてきた。
 流川の髪が、首筋のあたりにこすれてこそばゆい。ふんわりと微かに香る家庭用のリンスインシャンプーの香りと、流川の体臭が混ざった匂い。幼さと男が入り交じったこの匂いが、三井は好きだ。


「お前、犬みてえ……」
「……いぬ?」
「そうやって、ぐりぐり頭おしつけてくるトコとか」


 む、と流川の柳眉が寄せられる。仕返しとばかりに、鎖骨を甘噛みされて思わずヒッと声を上げると、満足そうな顔をして三井の顔を覗き込んできた。


「オレが犬ならセンパイはジョシコーセー」
「女子高生ぇ?」
「ルーズソックス履いてるから」


 お前が履かせたんだろ!という言葉は、再び重ねられた唇でうやむやになってしまった。


「ん……っ、ん……っ、ふ……」


 口付けされたまま、肌蹴られたシャツのなかに手が忍び込んでくる。既に少しふっくらと立ち上がっている二つの紅色の先端を指先でくにっとこねられて、腰がびくっと浮いた。


「……んんっ」
「ここ、スキ?」


 分かっているくせに、そういうことを聞いてくるなといいたい。
 口付けは待てないくせに、最近こういう『焦らし』を覚えてきたのはいただけない……と三井は思っている。流川に顔を背けるように必死に声を殺そうとしても、反対の色づく乳頭を短く切りそろえられた爪の先で掻かれてしまい、どうしようもなく声が出てしまう。流川が満足げな吐息を漏らすのが聞こえた。


「センパイのきもちーとこ、わかるようになった」
「……うっせーよ……」


 馬鹿野郎、こんな乳首に誰がした。犯人は目の前の男しかあり得ない。恨みがましい目線も、目の前の男はしれっとした顔で受け流している。
 胸を這っていた両手が、太腿のほうに動いていく。内腿の筋をたわむれのようになぞって、ゆっくりと左右に脚を割り開かれた。二年間のブランクはあるものの、四十分間を走り抜ける為に必死に鍛え直した脚は、どう見ても女のすらっと曲線的ですべすべしたシロモノじゃない。そんな脚に、まとわりつくように白のルーズソックスが履かされている。


 無意識にふるり、と震えた左膝に口付けられた。流川は押し倒した自分をじっと見つめながら、膝の半月板のあたりを舌でぐるりと舐めた。


「っ、あ……はあっ……」

 膝がぬるっと濡れる感触に、思わず腰がぐっと浮き上がるほどの快感が身体を巡っていく。
 男の鍛えられた脚にルーズソックスが履かされていて、そんな男を押し倒している。どう考えても冗談か笑い話にしかならないはずなのに、その光景に興奮している男がいて、その興奮している男を見て、興奮している自分がいる。なんて倒錯的なんだろう。


 左右に割り開かれた自分の膝の間に、流川が自らの身体を滑り込ませてくる。下着越しにやんわりと膨らんでいる箇所を手のひらで覆われて、直接的な刺激に、腰をゆらり、と揺らしてしまう。


「ん、あっ……」
「ここ、さわってほしい、すか」


 耳元で囁かれて、思わず素直にこくこくと頷いてしまう。流川の指先がボクサーパンツのゴムにかかると、言われてもいないのに脱がしやすいよう腰を浮かせてしまう。
 ずるりと下ろされた下着は、うまくルーズソックスを脱がさないよう器用に足を通され、ベッドの下に放り投げられた。外気に晒された自身が、先端を赤く染めて粘液を滲ませたまま、ふるりと震える。下着を濡らして色を変えてしまう前に脱がされてよかったという気持ちと、堪え性の無い自分の下半身への情けなさで感情がないまぜになる。


「ふ、っ……く、ぅ……」
「センパイ、今日やってみてーことある」
「……なに、すんだよ……」
 

 流川の大きな手で握られた自身をぼんやりと眺めていると、急に顔をその先端に近づけてくる。


「!?お前、なに……まさか……」
「センパイがしてくれること、オレもやってみてーっす」
「っ、お前、や、め……ひッ……あ、アッ!」


 自身の肉棒と流川の美しい唇がくっついた瞬間、腰骨が溶けるかと思うほどの快感が下半身を駆け巡った。亀頭を舌でぐるりと湿らせてから、舌をとがらせて鈴口を割るようにくすぐられる。堪えきれずにとぷりと透明な雫が鈴口から垂れ落ちて、竿を濡らしていく。
 少しずつ硬度を増していくそれを満足そうに眺めた流川は、適度に濡れた竿を人差し指から小指の四本でやわく包み込んだ。根元から先端へと緩急を付けて擦り上げられるリズムに、内腿がぶるりとわななく。


「あっ、ア……ひ、ぃ……んんっ、あ、ぅ……る、かわ……」
「きもちいい?」


 教えてもいないのに、『その』やり方は、三井が流川に施してやる『それ』と全く同じだった。自分が彼の股ぐらに顔を埋めてやるのは何回か覚えがあるが、その何回を、この男はまばたきもせずにじっと自分の奉仕を見ていたんだろうか。それとも覚えられるほどに気持ちよかったのか。流川のその手練れは、二つの意味で三井を翻弄していった。


 「ひ、あっ……んんっ……き、もち……」


 その言葉に満足したらしい流川は、なおも右手で三井の肉棒を上下に擦りながらも、左手で器用に三井の両足を自らの肩に掲げた。鍛えられた上半身に乗り上げるようになった自身の足が、ゆらゆらと所在なさげに揺れている。
 試合や練習中のように、額にうっすらと汗をかいて張り付いている流川の前髪を、右手でゆっくりと梳かす。心地よさげに目を細める様子は、大型犬に懐かれた飼い主のような心地がした。


「る、かわ……」


 同じく肌蹴たカッターシャツをくいっと引っ張ると、流川の顔がこちらに近づいてくる。耳元ではふはふと吐息混じりに呟いた言葉は呂律が回っているのか危ういところだ。それでも、自分の言葉を理解した流川が小さく喉を鳴らしたのを、三井は見逃さなかった。


「も、ぉ……いいから……ゆび、いれて……」

□□□



 つぷり、と指を挿し入れられる。まずは一本だけでゆるゆると内壁を確かめるように擦られたあと、二本、三本と指を増やされていくのが、ナカの感触と銜え込んでいる括約筋の緩みでも分かった。人差し指と中指で、腹側の胡桃大の小さなしこりを挟み込むようにされると、噴水の如く湧き上がるような快感が全身をぶわっと巡っていく。


「ン、ぁ!あっ……そこ、ひっ……うぅ……」


 跳ね返るように背を反らして、快感に身もだえてしまう。過ぎた快感で滲んだ視界のなかで、ゆらゆらと自分の脚が流川の肩にかけられたまま揺れている。
 ほかのすべての服を脱がされているのに、白いルーズソックスだけが履かされたままの姿は、本当なら滑稽なはずだ。それなのに、何故か無性にその変態的な視界が、三井のナカを熱くさせていく。流川の指を銜え込んでいるナカが、きゅうっと蠕動するように指にしゃぶりついている。はしたない。恥ずかしい。でも、……気持ちいい。前立腺を中から押し上げられるたびに、三井の肉棒の先端からは、蛇口を緩めたみたいにぽたぽたと先走りがこぼれおちて、三井の腹筋の割れ目をつうっと流れていく。


「る、かぁ……っ……も、……はや、く……」
「……センパイ、いい?」


 興奮で掠れた流川の声が、何よりも好きだ。誰にも見せない、親にだって見せたことがないだろう顔を、自分だけが知っている。その優越感と独占欲が、より一層快感を高めていく。


「いい、から……はやく……」

 快感で震える手をゆっくり伸ばして、流川の黒いボクサーパンツをずりおろしてやる。勢いよく飛び出てきた太い竿を一通り撫で、その下に付いている陰嚢もやわやわと、持ち上げるように優しく包み込んだ。


「ッ……センパイ、そこ……さわられるの、へんなかんじする……」
「……パンパンに膨れてんなって思って」
「……?」


 三井はうっそりと微笑んだ。ここに詰まっているもの、全部出しちまえ。オレの中に。すっからかんになるくらい、全部全部、オレに捧げちまえ。そんな言葉は流石に言えるわけもなく、その代わりに流川の肉竿を手で掴んで、自身の後蕾へと宛がった。先端と孔。ぴたり、と二つの粘膜がくっついて、糸を引いて離れる。見つめ合って、どちらからともなく口付けた。


「センパイ、いい……?」
「ん、いいから……」


 流川の亀頭が、ぐぐっと円環の縁を押し入ってくる。一番太い箇所が入り込んだのを確認したらしい流川が、勢いよく腰を押しつけてきた。


「――――ッ!……ァ……ァ、ぁ……」


 パツン!と大きな音を立てて、肌がぶつかる音がする。そんな音すら聞こえないくらいに、三井の視界は白く点滅しながらぱちぱちと火花を散らしていた。
 一気に根元まで胎内に押し込まれたと気づいたのは、尻に流川の腰骨が当たる感触があったからだ。一瞬、何が起こったのか分からなかった。ただ、あまりにも熱くて、自分のナカの粘膜が火照って、しゃぶりついていることしか分からなかった。熱い飛沫が、自らの胸から下腹部をぱたぱたと濡らしていく。三井はそこでやっと、自分が挿入された瞬間に遂情してしまったことを知った。


「は、ァ…………いれられた、だけ……なのに、イッちまった……」
「ぐ、……は……は、ぁ……センパイ、つよくしめつけすぎ……」


 流川が獣のように低く唸って、眉間に皺を寄せながら堪えるようにふうーっと長く息を吐いている。こめかみから滴り落ちる汗が、ぽたりと三井の胸の辺りに落ちる。強く締め付けすぎているといわれても、自分でもどうしようもない。三井の意思とは関係なく、粘膜は嬉しげに流川の太い竿を咥え込んでいる。
 臍の辺りまで先端が届いているんじゃないかと思うくらいに、圧倒的な存在感が三井を貫いている。ナカ、破られちまうくらいに奥に入ってる。そう思うだけで、下腹がひくりと痙攣した。


「は、ぁ……る、かぁ……」

 自分の甘えたような声が恥ずかしい。それでも、声を出さずにはいられない。ぐにぐにと、肉壁が甘噛みするように流川の陰茎を食い締めている。ずりずりと腰を引いて、再度一気に挿し入れられる。


「んァ!あっ、あ!そこ、あっ……あ!」
「……っ、せ、んぱい……」
「るかぁ、あ……そこっ……ひ……だめ、あ、おく……!」
「……おく、ココ……もっと入ってもいい?」
「だめ、だめだ、……あっ、だめ、え……」


 駄目だと言う割に、流川の先端でねっちりと奥をこねられてほぐされていく感覚に、ぶるぶると内腿が震える。流川の鍛えられた上半身に担ぎ上げらているルーズソックスを履いたままの脚が、自分の意思とは関係なく、流川が腰を突き入れるたびにぶらんぶらんと揺れているのが見えた。あまりにもいやらしい光景に、軽くめまいすらする。


「もっと奥、入りそう……だから」
「だめっ、あ……るかぁ……やだ、あっ、や……なんか、なんか漏れ、ちまうからっ!」
「漏らして、センパイ」
「やだ、アッ……ひ、……だめ、アッ、あ……アアッ!!」
「っ……、く……」


 柔らかくほぐれた行き止まりが、ぐぽっと音を立てて先端を頬張るのと、三井の先端から透明な体液が勢いよく吹き上がったのはほぼ同時のことだった。
 精液とは違うものが、びしゃびしゃと自らの身体と顔を濡らしていく。二度、三度と飛沫をまき散らして、シーツをぐっしょりと濡らしていく。ぎゅうっと搾り取られるような蠕動に、流川も達したらしい。色っぽい息とともに、奥の奥に熱いモノが叩き付けられるのを感じた。


 一度の射精の量が多く、中に出されているのがよく分かる。肉竿が粘膜に擦られてぶるっと震えるたびに、奥にビシャッと叩き付けられるのが堪らない。さっき下から持ち上げて確認をした、パンパンに張っていた陰嚢を思い出す。オレのなかに全部出しちまえ。そう再度思うとともに、自分が節操もなく漏らしてしまった事実もまた、三井に襲いかかってきた。さすがに漏らすのは初めてで、どうしていいのかわからない。肩を揺らしながらハーッ、ハーッと息を整えている流川の肩に、おそるおそる触れる。


「う、あ……ごめ、るかわ……おれ、もらしちまっ、た……」
「漏らして、って言ったのオレだし。全然いい」


 そう言うと、流川は三井の腹に溜まっている水分をすくって、鼻の辺りでくんくんと嗅いだ。いきなりの行為に、耳までぶわっと真っ赤になる。恥ずかしい所を沢山見せてはきているが、さすがに出したモノを匂われるのは恥ずかしさの限界突破だ。


「お、おい!そんなの嗅ぐなってば!」
「……これ、透明だし全然ニオイしない」
「まじで……?」


 三井もおそるおそる嗅いでみると、確かに尿とはちょっと違うような気もする。ということは、つまりこれは『アレ』ということになってしまうのだが……。その事実を、この純粋培養バスケ少年に説明するのは、さすがに憚られるような気がする。いや、男同士でこんなことをしている所からしてもう純粋培養ではないが、なんとなく三井の中で境界線があるのだ。
 ここは年上らしく、ぼんやりとはぐらかしながらシーツをはいでしまおう。そう心の中で結論を付けた三井の前で、流川が合点がいった、というような顔をして頷いた。


「これって、男でも潮吹くってヤツじゃねーんすか?」
「え!?……なんでお前そんなこと知ってんの……」
「前、ネットで調べたっす」
「…………」


 純粋培養バスケ少年に『男の潮吹き』の知識を与えてしまうインターネットは恐ろしい。


「潮吹くセンパイ、おんなのこみたいだった」
「なっ……!?」
「ルーズソックス履いてたし、なおさら」


 しれっとそんな言葉を言い放つ目の前の男に対し、瞬速でパンチを食らわさなかった自分の理性に三井は感謝した。


 お前がオレに履いて欲しいって、姉貴に貰ったなんて『ウソ』ついてまでお願いしてきたから!オレは履いてやったんだぞ!?これは遺憾だ。非常に遺憾だ。


 最後の一言がなかったら三井は流川の可愛い『ウソ』を信じているフリをしてやるつもりだった。それはもう、墓の中まで持って行くつもりだった。……少々、誇張表現だったかもしれないが、少なくとも今日の時点ではからかうつもりは毛頭無かったのである。仏の顔も三度まで。三井の顔は一度しか保たなかった。

すうっと息を吸い込む。渾身の一撃を、渾身のタイミングで食らわせるために。バスケもこれも、すべてはゲームメイクなのだから。

「――――――。」



 流川楓の顔面が、見たこともないほど沸騰した茹でタコ(仏頂面オプション付き)になるまであと三十秒。
 その話はまた、別の機会に。







end