【ネームレス俺×三井】昭和漁師妻AV

※俺〈ネームレス〉×三井
※三井は寂れた漁師町に〇〇(俺)に嫁いできた妻♂です
※昭和レトロAVのような雰囲気だと思って下されば幸いです
※なんでも大丈夫な方のみ





 沖のほうから吹いてきた海風が、海面をなぞって港のほうへ吹き込んでくる。
 まだ夜の余韻を残したままの空には、海鳥が数羽ほど羽ばたいている程度だ。
 そんな、寂れた小さな漁港の近くに建つ一軒家の中。使い古された布団が、こんもりと山になっている。その山がごそごそと動いて、布団の端から少し寝癖のついた髪の毛がひょこりと覗いた。続いて寝ぼけ眼の表情の顔も現れる。


「……いま、なんじ……」
 かすれた声。薄い布団から手を伸ばし、近くにあるはずの目覚まし時計を探す。黄色く変色した畳が、ちりちりと彼の腕をかすめる。何もかもが年季が入っている古めかしい日本家屋の寝室には、夜明けの気配が漂っていた。

 何度か腕をのばして探したものの、どうやら目覚まし時計が見つからなかったらしい。諦めたように溜息をつき、むくりと起き上がる。ぼうっとした眼のまま、柱に立てつけられている何の洒落っ気もない時計を見て、三井は飛び起きた。
「!?四時……っ!」

 朝の4時といえば、普通の人にとってはまだまだ起きる時間ではない。けれども、彼の伴侶が出勤する時間はとっくに過ぎてしまっていた。いつも自分の方が早く起き、隣で寝ている伴侶の体温を惜しく思いながらも布団を抜け出す。台所で味噌汁をができる頃になると、いい匂いにつられて、彼も起きてくる。味噌をくるくると溶いている自分を後ろから抱きしめて、かすれた声で「おはよう」と言ってくれる。それがいつもの日常であった。
 だが、すでに彼がいる気配はない。朝ご飯やお弁当……彼はどうしたのだろうか、と一瞬頭をよぎったあと、三井は何かを思い出したかのように深く息を吐いた。

 そうだ。
 あの人は今、居ないのだ。

 三井は布団をきゅっと握りしめて、自分の横を眺める。
 ぽっかりと空いたその空間には、最愛の伴侶が居るはずだった。おおよそ二十日前、水平線から船が見えなくなるほど遠い遠い海域へ漁に出かけてから、毎日のように三井はこのような事を繰り返している。当たり前であったそのぬくもりが無いことがこれだけ寂しいものなのだと、自分は思いもしなかった。

 彼が遠洋に出てから、三井は壁に掛けてあるカレンダーに一日ずつバツ印をつけていた。漁業組合で貰った、何の変哲もないそれ。強い潮風と西日で端はぺらりとめくれあがっているようなカレンダーにバツ印が増えるごとに、三井はそっと、その赤い印をなぞるのだった。
「あと、三日……」

 とん、とん、とん。

 みっつ叩いて、大きく丸印がつけてある日付までたどり着く。それを人差し指の腹でいとおしげになぞって、三井は微笑んだ。このバツ印が増えるごとに、彼に会える日が近づいている。それは、自分の心を鼓舞する唯一の支えでもあった。

 畳に敷いていた布団を片付け、炊飯器のスイッチを入れる。台所から居間へと歩いていき、大きなカーテンを開けると、ちょうど朝日が水平線から昇ってくる時間のようだった。太陽は水面を赤く染め上げて、ゆっくりと空へ昇っていく。


「……綺麗だなあ」
 三井は、この時間が大好きだった。
 立てつけの悪い引き戸を開ける。軋んだ木の音がきゅうきゅうと鳴ったけれど、そんなことも気にならなかった。大きく深呼吸をして、肺一杯に空気を吸い込む。新鮮な冷たい空気が、先程までのぼんやりとした自分を払拭させてくれるように思えた。
 築数十年の、何もかもが古い家だけれど、この家の居間からはこうやって辺り一面の海が見渡せる。なだらかな海の満ち引きは自分の気持ちを慰めてくれるし、このような美しい朝陽の光景は、何度見ても溜息をついてしまうほどに圧巻だ。

 彼も今、船の甲板で、この朝陽を見ているのだろうか。
 彼は、寂しくなったら海を見ろと言ってくれた。自分は常に海を見ている。お前も海を見れば、俺達は離れていてもずっと一緒だと、長期の漁に出かける前、しょんぼりと項垂れている自分の頬をそっと撫でて教えてくれた。

「……今日も良く晴れてる」

 願わくば今、彼も自分と同じものを見ているといいのに。
 ぽつりとつぶやいた言葉は、誰にも聞かれることなくそっと消えていった。




     :::





「寿ちゃん」
 買い物袋を提げたスーパーからの帰り道、三井は後ろから声を掛けられた。
「おばさん……ご無沙汰しております」

 愛想よく顔をほころばせる。同じ漁業組合に入っていて、色々な会合で何回も会ったことがある人だ。都会から嫁いできて、最初は何も分からない自分に甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
 この寂れた小さな漁港の港町に住む妻たちは、皆自分に優しくしてくれる。分からない事があったら、何でも聞きなさいね、と。男という事で引け目を感じていた自分には、第二の母親のように感じられるのだった。

「寿ちゃん、今旦那さんが沖に出てるんでしょう?」
「はい、そうなんです。……晩御飯とか、ついつい二人分作っちゃって。朝起きる時間も、こんなに早くなくたっていいのにどうしても起きてしまって」
「分かるわあ、私も寂しかったもの。ついつい隠れて泣いてしまう時だってあったわ?」
「おばさんも……?」
「ええ、当たり前でしょう?おばさんだって、若くてきれいで繊細な心を持っていた奥様だったときがあるのよ?」
 彼女がわざとおどけたような素振りをみせる。その顔には、齢を重ねて美しく刻まれた皺があった。
「おばさんは今でも綺麗ですよ」
「あら、嬉しい事言ってくれるわねえ、寿ちゃんったら」
 二人でくすくすと笑いあう。少し肌寒い風は、浜の方から潮風を届けてくれる。昼網が上がってくる頃だろうか。きっと彼女がにこやかなのも、もうすぐ夫が帰ってくるからなのだろう。
「帰ってきたらすぐ、腹が減っただの風呂に入りたいだの、色々と言うから大変なのよ」

 そんな事を言っているけれど、きっと嬉しいんだろうなと思う。彼女の手には、長年嵌めてきた指輪が、薬指につけられている。
 長い間付けている所為で傷だらけだけれど、それは夫婦が寄り添ってきた長い長い時間を表しているように思えて、それはとても愛おしいもののように感じた。
 ふと、自分の薬指を見つめる。まだまだ新しいそれは、ぴかぴかと新品に近い形で輝いていた。この指輪と対になるものを持っている伴侶は、今どのあたりの海の上を漂っているのだろう。
 ぼんやりと海を眺めていると、遠くに船が見えた。もう少しで、彼女の夫が帰ってくる。

「あら、そろそろお暇しなくちゃ!寿ちゃんも、早く旦那さん帰ってくるといいわねえ」
「はい、ありがとうございます」
「子どもができたら賑やかになって、寂しいとかそれどころじゃないんだけどねえ」
「…………はい」
「あっ!……ええと、違うのよ?そういうことじゃないの」
 はっと何かを気づいたように彼女は瞠目すると、その後、申し訳なさそうな表情を見せた。
「別に寿ちゃんの事を何か言ってるわけじゃないのよ?子どもが居るか居ないかが幸せの定義じゃないわけだし……」

 子どもの云々についてはふと言葉に出てしまっただけで、彼女に悪気があった事ではないのは分かっている。けれども、その言葉はまるで絡み付く棘のように、身体を強張らせていく。腹の中にどろりとした何かが溜まっていくような息苦しさをぐっと抑えるように、三井は息を殺しながら微笑んだ。
「旦那さん、帰ってこられましたよ」
「あら……」
 三井が指差した先を追うように、彼女もそちらを眺める。その先には、何隻かの漁船が港に停められた所だった。
 手を振りながら港の方へと向かう彼女を見送り、三井はスーパーの袋を持ち直して、家の方向へと歩き始める。待つ人の居ない家は、こんなにも味気ないものなのかと思いながら。

 少し傾いた斜陽が、沖で羽ばたくかもめをオレンジ色に染め上げていた。



     :::




 晩御飯を終えた三井は、居間のテレビを何気なく付けたまま湯呑みを両手で持ち、ぼうっと床に座っていた。今日も今日とて沢山作ってしまった晩御飯は、タッパーに入れて冷蔵庫に保管してある。いつもの癖でどうしても二人分作ってしまう癖は抜けない。
 テレビでは、特に見ている訳ではないドラマが流れている。何かを言い合っている男女、ヒロインと思われる女性がくるりと背を向けて駆けだそうとしたその時、主人公が手を引き彼女がぐっと抱き込まれる。目と目が合い、そのままネオンがきらめく中で二人はそっと顔を近づけ――……そこまで見て、三井はテレビの電源を消した。

「はあ…………」
 長い溜息をつく。着たままだったエプロンの、蝶々結びの紐をそっと外した。色あせたそれは、三井がここに嫁いでからずっと使っている物だ。
 元々はオレンジ色をしていたそれは、何度も洗濯と乾燥を繰り返すうちに淡いクリーム色になってしまっている。けれども三井はこれ以外のエプロンを着る気になれなかった。


 これは、三井がここに嫁いできてから、彼が初めて与えてくれたものだった。彼にとっては大したことはない贈り物だったかもしれない。けれども三井にとっては、自分がこのひとの妻になれたのだという、確固たる証のように思えたのだ。

 同性で、こんな田舎町で、世間や万人から認めてはもらえないそんな自分達だけれど、彼がこうやって自分を認めてくれるなら何だって我慢できると、そう思えた。
 慣れない生活や、周りの環境に戸惑うことは何回もあったけれど、このエプロンを見ると頑張れる気がした。
 なのに今、彼は此処にいないのだ。

「子供、かあ……」
 今日出会ったにぎやかな子供たち。父親が居なくて寂しいはずなのに、母親と二人でいる姿は自分からすると、とても羨ましものに思えた。
 ぽつりと彼の名を呼ぶと、より一層寂しさが増した。この家は、一人で居るには広すぎる。

 台所の水場に置いている金桶に、蛇口から零れ落ちた水が跳ねた。
「…………」
 彼のことを思い出す。凛とした目と、すべてを包み込んでくれるような優しい微笑み。
 海で日焼けした肌、いつも家に帰ってきて抱き締められると、潮のかおりと磯の香り、少しだけ汗の匂いがする。
 温かい腕に抱かれてしまうと、いつだって自分は全てを彼に委ねてしまいそうになる。帰ってきた途端、強引に唇を重ねられてそのまま、なしくずしで畳の上に押し倒された事だって――。

「……っ」
 そこまで考えて、三井はもぞりと臀部を座布団に強く押し付けた。こんなことを今考えてはいけなかった。だめだと思っているのに、無意識に座布団に尻を左右に擦り付けてしまい、甘い息を漏らす。
「っ、ん、ぅ……」
 震える手でゆっくりと左手の薬指の指輪に口付ける。そうしたら、彼に口付けているみたいに思えた。何度も何度も角度を変えて食むように触れ、啄むようにして、そのまま三井はずるずると倒れ込んだ。畳が頬をちりちりとかすめる。
「っ……は、ァ……」
 静かに、自分の右手を服の中に忍ばせていく。こんなこと、しちゃいけない。こんないやらしいことを、ひとりでしちゃだめだ。そう思っているけれど、自分の手は止まることなく着ていた服の中を這い回り、二つの尖った先端を見つけた。
 ぷくりと膨らんでいるそれは、いつも彼が舐め吸ってくれる所だ。爪の先でこすると、この数週間感じることのなかった快感が、下半身を痺れさせるようにしてじわじわと広がっていく。
「あっ……うっ、んんっ」
 ぴたん、ぴたんと台所の蛇口から零れ落ちる水の音は未だに聞こえてくるし、古くなった蛍光灯は、若干黄色く部屋を照らしている。そんな日常生活の夜の中で、自分だけが『いつもと違う』ように思えた。
 ぐいっと服をたくしあげる。朱色になって硬く立ち上がっている二つの突起を見て、自分でごくりと喉を鳴らす。

 もっともっとさわってほしい。さわられたい。……きもちよく、なりたい。

 三井はゆっくりズボンをずり下げた。すると、今まで押し込められていたそれが下着の隙間から頭を覗かせる。外気に触れてひんやりとするそれを、左手でやわく握った。ゆっくりと上下にしごいてやる。無意識のことだったが、その方法は彼がいつも自分にしてくれるやり方と一緒だった。
「っあ……んっ……ぁ」
 質量を増したそれは、より一層天を向き先端からぷくりと蜜を零れさせる。小さな喘ぎ声を漏らして、三井は畳に額を擦り付けた。
「っあっ、あッ……ンンっ」
 いつも彼は、先端をくるりと弄って、それから竿の裏のあたりを擦ってくれる。それが気持ち良くて、三井は思わず彼にぎゅうっとしがみついてしまうのだ。それと同じ方法でさわっているはずなのに、何故だろう、何か足りない気がする。もっと、欲しい。


 三井はおそるおそる、自分の右人差し指をぺろりと舐めた。舌でくすぐるように舐めると、まるで彼のそれを愛撫しているような気分になる。いつも大きくて、三井の口の中には入りきらないものだ。苦くて潮っぽいけれど、三井はそれを咥えて彼が気持ちよさそうにしているのを見るのが大好きだった。
「んっ、んんっ、ひ、あ……」
 自分の唾液塗れになったそれを、ゆっくりと宛がっていく。双丘の奥……隠れて窄んだその先。後孔へと這わせるように。自分の唾液で濡れた指がその窄まりに押し込まれぐちゅりと音を立てた瞬間、思わず三井はきゅうっと背中を丸めて快感に耐えた。
「んっ、あアっ!」
 きゅうきゅうと絡み付いてくる自分の後膣が、久々の異物を悦ぶようにに食いついてくる。そのままゆっくりと指を腹の方に曲げて、こりっとしたしこりを掻いた瞬間、三井は頭の中が真っ白になってしまったような感覚を覚えた。
「~~~ッッ!……ヒ、っ、あっ……ァ、ァ……」

 目の前がちかちかする。前も遂情してしまったのかと思いきや、それは未だに天を仰いでぶるんっと震えて硬くなったままだ。
「っ、く……は、っ……んっ……」
 強烈すぎる快感から思わず涙がこぼれる。横向きになっている三井の瞳から流れたそれは、鼻梁を通ってぽたりと畳を濡らした。
「あっ、きもち……い……っ…、ぁ……」
 いつのまにか、声を我慢することなく指を激しく出し入れするようになっていた。ぐちゅぐちゅといやらしい水音が鳴るのも厭わない。荒い息を吐きながら、熱を持った若い妻の身体は火照りながら雄を求めて震えている。
「ひっ、あっ……も……イ……きた……」
 頭の中で最愛の夫の姿を思い出しながら、一心不乱に性に善がり狂う。脳裏には最愛の夫が、自分に覆いかぶさって苦しそうにしながらも優しく笑う顔を思い出す。その瞬間、三井は声も出さずに遂情していた。
「…………っ、ッ!!っ、あ……」
 左手で握りしめていたものから、ぱたぱたと白濁が零れ落ちる。左手の結婚指輪がぬらぬらした液体にまみれているのが、ひどくいやらしい。荒い息を整えながら、そばにあったエプロンで散らばったものを拭っていく。
「…………」
 収まった快感と放蕩とした思考はすぐに立ち去ってしまい、現実感が少しずつ顔を出す。自分は今、何をしていたんだろう。
 急に罪悪感がつのり、三井はそのエプロンに顔を埋めた。生臭い匂いが、鼻腔をくすぐる。
「っ……うっ」

 ぐすっと鼻をすすって、三井は少しだけ泣いた。



     :::




 朝の光の眩しさに瞼を開くと、近さで焦点が定まらない畳が見えた。
「っ、寝坊……!」
 はっと飛び起きると、また午前四時だった。起きなくてもいいのに、またこの時間に起きてしまう。いつのまにか三井はそのまま床で寝てしまったらしい。布団も出さずに居間で寝てしまったせいで、身体全体が固くなってとても痛い。溜息をついて、三井は台所に向かった。


 綺麗な水で、自分の汚れた手を洗い流していく。少し早いけれど、このまま朝ごはんの支度でもしてしまおうか。そう思っていた矢先、玄関の呼び鈴が鳴った。
 こんな朝早くに誰だろう。少し不思議に思いながらも、三井は「はーい!」と大きく返事をした。
「ちょっと待ってくださいね~」
 タオルでぱんぱんと手の水気を拭き取ってから、急いで玄関に向かう。鍵を開けて引き戸を開けると、そこには居るはずのない人物が立っていた。

「……どうして」

 三井は目を見開いたまま固まってしまう。うそだ、そんなはずない。だって彼はあと二日間過ぎないと帰ってこないのだから、嗚呼きっと、これはまだ夢の中なのだ。きっとそうだ。
「なんだその、お化けにでも会ったみたいな顔は」
「……っ」
 おそるおそる、その腕に触れる。
「……あったかい」
「当たり前だろう、生きてるんだから」
 出て行った時よりまた少し日焼けした、最愛の伴侶がそこに居た。

「っ……!!」
 ぶわっと涙がこみ上げてくる。そのまま逞しい身体に腕を回すと、同じように抱きしめてくれた。
「まだ風呂に入れてないから臭いぞ」
「いいんだよっ、……そ、んなのっ……」
 いつもより強い彼の体臭が、より一層、これが夢じゃないんだと感じさせてくれる。数時間前まで一人で火照っていた身体が、また再燃しそうになる。そんな三井の心なんて露知らず、彼はくしゃりと三井の髪をかきまぜるように撫ぜた。

「寂しい思い、させたな」
「…………」
 こくん、と頷く。寂しかった。本当に寂しかった。一人ぼっちの夜がこんなに寒いなんて、知らなかった。仲睦まじい夫婦を見ているだけで、きゅんと胸が苦しくなった。どうして今自分の隣に、彼がいないんだろうと思った。彼は仕事の為に水平線の向こうに出かけているのに、そんな自己中心的な自分に嫌気すらさした。
 身体のぬくもりを確かめるように、頬にすり寄せる。涙目のままじっと見つめると、その男は苦笑いした。
「そんな顔してると、今この瞬間にでも抱きたくなるだろ?」
「…………」
 彼の言う『抱きたくなる』が抱擁だけじゃなく何の意味を持っているかなんて、三井はいやというほど知っている。それでもより一層身体をくっつけるのは、自分もそれを求めているから。

 彼の香りに包まれていると、自然と身体が熱くなってくる。ごりっと擦りつけられる雄の象徴を嬉しく思いながら、下半身が蕩けるような快感を想像して、三井は短く吐息を漏らした。
 喉がごくり、と鳴る。それが欲しい。彼のそれが……今、今すぐに。
「いい、か……ら……」
 声を発する為に開いた三井の唇は、すぐに男のそれで塞がれていった。



   :::




「なあ」
「…………」
「な~あ、もう寝ちまったのか……?」
 後ろから抱き込まれたまま、すやすやと心地よい寝息を立てている伴侶を伺う。
「抱きしめられてたら朝ごはんの用意ができねえんだけど……?」

 しょうがねえなと笑いながら、遠くに放られている淡いクリーム色のエプロンを見やった。三井の中には今、この男の子種が沢山注ぎ込まれている。
それは決して子を宿すことは無いけれど、それでも三井は幸せだった。この愛しい男と二人で居られるなら、これ以上何も要らないとさえ思えた。

 彼は海の男だ。
 獲物を求めて海を彷徨い、自分は彼の無事を願いながら、そっと帰りを待つ。それでいい。彼の為に支えてあげたい。最愛のひとが、戻って来たいと思えるような存在でありたい。
 寝転んでいる居間の窓から、斜陽に包まれた水平線の遠くに船が一隻見える。三井は後ろから抱きしめられたまま、その風景をじっと見つめた。

 ここは寂れた港町で、海と漁港しかない所だ。
 それでも自分は、此処でこのひとと生きていく。潮風が吹きこんでくる晩秋の夕暮れ、築数十年をゆうに越した古びた家の中で、三井はうっそりと微笑んだ。

 遠くから、かもめの鳴く声が聞こえた気がした。 




        〈完〉