【長谷三】のーぱんしゃぶしゃぶごっこ

 扉を開けると、そこはパステルカラーで統一された少女漫画のような部屋だ。
 どこにでもあるラブホテルといったところだろうか。大きなクッションやぬいぐるみ、メルヘンな雑貨たち。可愛いものに溢れたその部屋の真ん中に、長谷川がよく知る男がぺたんと座っていた。

 顔を忘れたことなんてない。中学の頃に憧れに近い気持ちで一方的に目線で追いかけていた時も、偶然街中で見かけてガンを付けられた時も、インハイ予選で対戦した時も。
 自分を翻弄した14番。三井寿――……。そんな男がどうしてここにいるんだろう。そもそも、自分もどうしてこんな所に居るんだ?長谷川の頭の中に疑問が次々に浮かぶが、何ひとつ答えが見つからない。そんなうちに、座っていた三井が長谷川を見ると、嬉しそうに微笑んだ。

「いらっしゃいませ!いつもありがとな♡」
「……はあ?」

 第二次性徴も終わりに近づいているだろう十八歳の三井が身につけているのは、紺色のセーラー服だ。白のスカーフが清楚な雰囲気を醸し出している。膝上10センチほどのプリーツスカートから覗く脚は、適度な筋肉が付いていてさわり心地がよさそうだ。……って、何を考えているんだ。
 黒のソックスを履いてぺたんと絨毯の上に座り込んでいる様子は、まるで本物の女子高生と大差がない。……だから、俺は何を考えているんだ。頭がおかしくなってしまったのかもしれない。長谷川はその思考を振り払うように頭をぶんぶんと横に振った。


「今日は仕事が休みなのか?」
「……仕事??」
 長谷川が首を傾げる。何が仕事なのだろう。自分達は一応……まだ高校生のはずで、特にアルバイトもしているわけではない。すると三井がむっとした顔で詰め寄ってきた。
「も~ちがうだろ!いいか?はせがわは『仕事が上手くいかない窓際サラリーマン』っていう役だろ?」
「……そうなのか?」
「前もそーだっただろ!!」


 それは初耳である。というか、前もそうだったと言われても長谷川自身はまったく覚えがない。けれども、三井がこんなに言うのなら、そうなのかもしれない……。

 長谷川はどうにもこうにも、三井に弱かった。三井に弱いというより、どうもこの部屋の中は理性的な思考がぼやけてくる。段々と、本当に前回もそんな約束をしてこの部屋で会っていたような気がしてきた。


 長谷川はコホンと咳払いをして、ベッドに座り直す。
「……いや、仕事もあるんだが、お前に会いたくてな」
 上着を預かってくれるらしい三井に、服を渡しながら答えると、三井が嬉しそうに笑った。鼻先に小さくキスをされる。この返しは及第点だったらしい。
「ふふっ、じゃあオレがい~っぱいサービスしてやるからな♡」

「なあ、オレのからだ……ぜんぶ見えるか……?」
 淫靡に笑った青年が、ゆっくりと制服をたくしあげていく。上半身の二つの突起は桃色に薄く色づいており、早く触ってほしそうにふるりと震えているようだ。
 下のプリーツスカートから覗くことが出来るのは、本来であれば、女性には付いていないその硬く反り返った三井の屹立が見え隠れする。
「三井、下着はどうした……」
「だって、すぐにとお前とえっちなことしたいのに……パンツなんていらないだろ?」
 試合中にはぎらぎらと闘志に燃えていたその瞳の色は、いまや満開に花開き、ゆるやかに蕩ける琥珀のようだ。たくしあげれられたスカートから覗くそれは、先端を朱色にそめて、鈴口からはとろりと透明の液体がこぼれ落ちる。
おそらく若干は生えていたであろう陰毛は、彼の趣味なのか分からないが、きれいに剃り落されている。まるで子供のようなつるんとした下半身と、大人のように興奮して蜜を垂らすそれの対比がたまらなく扇情を煽り立てた。
「ねえ、よくみて?おれの、ちゃんとみろよ……?」
「ああ……ちゃんと、見ている……」
 若干、自分の声が興奮で低く掠れている。その声に三井は満足そうに笑った。
「なあ、おれの……さわる……?」
 プリーツスカートを押し上げているそれを、長谷川の近くに寄せる。長谷川は躊躇うことなく手のひらで、そのてらてらと体液まみれのそれを包み込んだ。亀頭をやわく握ってやると、か細い声が漏れる。
「あんっ♡んっ……んん……すごい……っアアッ♡♡もっとぉ……もっとしろっ♡♡」
 三井は快感に震えながら、ぴくんと背を反らせる。たくしあげていたセーラー服から見え隠れする乳頭が、ぷくりと勃ち上がっている。半ば誘われるようにして、長谷川はその突起へと口を近づけていった。
「んっ♡そこ……っ、はせがわ、いっつもちゅうちゅうするっ……」
「っ、いや、か……?」
「んーんっ♡♡はせがわにだけ……おっぱいあげる……♡」
 いつのまにか自分が彼の『ごっこ遊び』に引きずり込まれている。脳の片隅でこんなのおかしい、なんて警鐘を鳴らすもう一人の自分を完全に無視して、長谷川はその行為に没頭していった。
 舌で一舐めしてから、唇全体でじゅるじゅると吸いあげる。まるで母親の乳を強請る赤子のような気持ちになりながら、長谷川は固く尖ってきた乳頭を舌先で弄ってやる。すると子猫のような甘えた声が上から降ってくる。
「あんっ♡♡んっ♡アアッ♡♡ふ、ぅ……んっ……」
 目尻に涙を溜めて顔を真っ赤にさせながら、三井は長谷川の頬を優しく撫でる。
「んっ……おっぱいもいいけど……っ、おれ、はせがわの舐めたい……♡」
 上半身のセーラー服をするりと脱ぎ捨てる。
「オレ、はせがわがいちばんすき……」
 顔を紅潮させて、瞳を潤ませる。両手を頬に当てながら、まるで恋するの乙女のようなそぶりで彼は言った。
「オレ……はせがわのちんぽが一番大好き♡♡……だから、いっぱい舐めさせろよな♡」
 ズボンの布越しではあるが、三井の手が長谷川の股間に触れる。
 ぐっと熱を持って膨らんだそこの形を指で愛おしそうに辿る。それがまるで、自分の大好物のキャンディであるかのように三井は屈託なく笑った。
「な……? なめて、いいだろ?」
 屈託なく、まるで花も恥じらう少女のような笑顔で三井は長谷川の下着をずりさげる。ぼろんと勢いよく出てきたそれに頬擦りをしながら、そっと先端に口付けた。手で幹のあたりをすりすりと擦られながら、裏筋を舌でなぞられる。ぐぐっとより一層勃ちあがったそれに、三井は嬉しそうな顔をする。
「あっ♡なあ、きもちいい?おれのふぇら、きもちい?」
「……っああ……最高、だ……」
「へへ、おれ、ほめられるとのびるタイプなんだぜ……♡」
 長谷川のぷくりと先端に浮いた先走りを掬い取るように舌でなめとると、小さい声で「しょっぺぇ……」なんて言う。淫乱なのか初心なのか、男のはずなのに女の制服を着て、どんな女よりも色っぽい仕草で自分のそれに唇を寄せる。
 そんな姿を見ていると、この男に怒涛のスリーポイントを決められた苦い記憶だとか、そういう事が頭の中からすうっと霧散していきそうになる。
 これは、ただの長谷川の雌なのだと、そう錯覚してしまいそうになる。
「……三井……も、離せ…」
「ひゃや(やだ)……」
 どくどくと心臓が高鳴る。まるでご馳走を頬張っているかのような三井の顔が、ゆっくりとこちらを向く。上目遣いで、その小さな口で自分の滾ったそれを咥えて、長い睫毛に彩られた琥珀色の瞳が自分だけを見て―――。その瞬間、長谷川はぐっと三井の後頭部を掴み、喉奥に熱い奔流をぶちまけていた。
「んっ♡♡んんっ……んぷっ……」
「……は、……ぐ、……っ……は、あ……」
 こくこくと三井の喉仏が上下している。中学の頃から自分と違って自信満々な弧を描いていた唇の端から垂れ落ちる白いものがひどく卑猥だ。
 三井は一旦長谷川のものを口の中から出すと。先端に強く吸い付く。
「……っ、おい!……ッ、う」
「さいごまで、ちゃんとださないと……だめだろ♡」
 根元から少しずつ握られ、搾り出すかのような仕草で手を下から上へと擦り上げる。勢いが少なく、どろりと出てきた精液を、まるで残り汁を掃除するかのようにじゅるっと口で吸い上げた。まるで本当の風俗嬢のような仕草に、長谷川の下腹は再び熱くなる。
「んっ……ごちそうさま♡」
「……おい、三井……」
「ふふ、だめだぜはせがわ……♡基本料金はここまで」
「基本……料金……??」
「基本料金はふぇらごっくんまで!この三井寿にえっちなことがしたいんだったら……」
 そこまで言って、三井は右手の人差し指で長谷川の鎖骨のあたりをつうっと撫でる。

――追加料金で、オプションになるけど?

 ハッと勢いよく目を開けると、そこは見知らぬ……ではなく見知った長谷川の自室の天井だった。ベッドで安らかに寝ていたはずなのに、心臓がドクドクと音を立てるように激しく鼓動している。心なしか寝汗もかいているような気がする。いや、心なしかどころではない、ビッショリだ。まるで夢に魘されていたような。……夢?
「みつ、い……?」
 夢の中に出てきた男の名前を無意識に呟くと、さっきまでの夢の記憶がぶわっと脳裏によみがえってきた。男なのに妙にセーラー服が似合っていた姿。スカートの裾から見えた肉付きの良い脚。形の良い唇で自分のそれを咥えて、まるで甘味のように舌でぺろぺろと味わっていた姿。
「…………ッ……」


 がばっと上半身を起き上がらせる。そうだ、あれは夢で……。
 現実に返った安堵と少しの落胆感で長谷川は大きくため息をついて頭を項垂れる。そうだ、夢でしかないじゃないか。三井が……あの三井が俺にあんなことをするなんて現実では有り得ないだろう。どんな夢を見ているんだ俺は。
 長谷川は大きな掌で顔を覆ってどんどんと襲い来る後悔の念に堪えるようにぎゅっと目を瞑る。しかし十代の健康な身体は心よりも正直だ。うなだれた頭とは裏腹に、下半身は朝から意欲的に重力に逆らっている。……憎らしいほどに、体は元気だ。


 翔陽高校バスケ部朝練の為に家を出るまであと一時間。長谷川は非常に不本意ながら、その貴重な一時間のうちの10分少々を自分の下半身を宥めるために使わざるを得ないのだった。

END