我が家に居るお姫様を紹介しよう。
コトン、と置かれた皿。
その晩御飯をちらりと見つめて、すぐにぷいと顔を反らす。黒混じりの茶色の毛並みは少し癖があるものの、滑らかに艶めいている。瞳はまるで琥珀を溶かしたような澄んだ色をしている。その目がすうっと細められる。
何かお気に召さないのだろうか。仙道がそう考えていた矢先、彼女は床に置かれたそれを尻尾でぱしん、と払う。そして、エサには見向きもしないままぴょんとソファに飛び乗った。何時もの指定席である、ふわふわのクッションの上でごろんと横になる。
「……要らない?」
そう問いかけると、あたかも肯定するかのように、にゃああんと鳴いた。
――Ⅰ.お姫様はモン〇チしか食べない
テレビを見ている仙道の膝の上に、ちょこんと前足を乗せる。そのまま全身を腿の上に乗り上げると、そこで丸くなった。
「おや、機嫌が直ったかな?」
さっきまでは近寄りもしなかったのに人恋しくなったのだろうか。
仙道がゆっくりと頭を撫でてやると、気持ちがよさそうに目を細める。そのまま顎のあたりを指でなぞってやると、ゴロゴロと喉を鳴らして擦り寄ってきた。自分から背中を擦らせるようにするのは、彼女にとってとても珍しい事で。どうやら機嫌は直ったようだ。
「明日、モ〇プチ買ってくるから」
みゃん、と子猫のような甘い鳴き声で、賢く返事をするのだった。
――Ⅱ.お姫様は撫でられるのがお好き
そして今晩、我が家にはもう一人のお姫様がいる。
「なんだよ、俺が有り合わせで作ってやったゴハンは要らねえってか?さすがお猫様だな……」
「いつもと違うからちょっと警戒しただけで、お腹がすいたら食べてくれますって」
「どーだか?そうやってお前がいっつも甘やかしてるからワガママに育っちまったんじゃねえの?」
「三井さんも『気まぐれなところが可愛い』ってさっきまで言ってたじゃないですか」
「ふ、ふん……確かに可愛くねえとは言わねえけどさすがに度が過ぎるぜ」
仙道がそちらばかり構うのがよほど気にくわなかったらしい。チェックのエプロンをかけたもう一人のお姫様はツンと拗ねながら、ほかほかに炊けた炊飯器から炊き立ての白米を茶碗に盛っている。
そんな、つんつんとしながらも、ちゃんと二人分を用意してくれるところは可愛い。……なんて、仙道が盲目になってしまっているだけかもしれないが。
「みーつーいーさんっ」
「もーなんだよ?……っ」
三井の後ろからぐっと腰のあたりを抱きしめる。最初はばたばたと暴れていたが、逃げ出せないと知ると潔く抵抗をやめた。
「……こうやって抱きしめたらオレの機嫌が取れるとか思うなよ!」
「思ってないですよ?俺が今抱きしめたくなっただけ」
「そ、そーかよ……」
うっすらと赤くなっている耳の近くで、小さく囁いてやる。
「早く三井さんの作った美味いメシが食べたいな」
「……ッ!しょ、しょーがねえな!」
――Ⅲ.(番外編)お姫様は、王子様から甘えられるのがお好き
END