空にある何かを見つめてたら
それは星だって君が教えてくれた。
真昼の国際空港のターミナルは、硝子越しに燦々と太陽の光が差し込んでくる。出国手続きを終えた搭乗待合室のベンチに座って、そんな中で、どうしてか自分は夜空の曲を歌うあの横顔を思い出していた。
ほんのさっき、出発口の前で手を振ってくれたあのひとが、まだ高校生だった頃。
放課後に流れで寄ったカラオケ点。チープな伴奏に合わせてすうっと息を吸い込んだ肩。
僕ら見つけ合ってたぐりあって同じ空
輝くのだって二人だって約束した
最後のサビの前で勿体ぶって「いくぜ」なんて合いの手を入れて、茶化した横顔。ドリンクバーのメロンソーダを吸い込みながら、風通りの悪い暗い密室の中で、何故かセンパイから目が離せなかったこと。
帰りに二人乗りした自転車。それ、何の曲。そう聞くと普段でも大きな瞳をこれでもか、と大きく丸くしたこと。洋楽にしか興味ねえんだと思ってた。なんて言って、顔をくしゃくしゃにして笑ったセンパイのえくぼ。海風に揺れる前髪。モラトリアムの時間になたびく白いカッターシャツ。曲の歌詞にあったみたいに「あの星って何の星か知ってるか」なんて聞いて、お互いにどちらも知らなくて笑い合ったこと。
小さな振動でスマートフォンが揺れる。メッセンジャーを開くと、センパイからspotifyのURLだけが無言で送信されている。イヤフォンを付けてから開くと、先ほどまで自分が心の中で口ずさんでいた曲の前奏がゆるやかに流れてきた。小さく唇を緩めて、ゆっくりと目を閉じる。
瞼の裏側に、星空が見える。
僕ら見つけ合ってたぐりあって同じ空
輝くのだって二人だって約束した
遙か遠く終わらないベテルギウス
誰かにつながる魔法
僕ら肩ならべ手取り合って進んでく
辛いときだって二人だって誓っただろう
遙か遠く終わらないベテルギウス
君にも見えるだろう
祈りが
目を開けて、すうっ、と息を吸い込む。
重いバックパックを背負い、ゆっくりと歩き出した
end