恋なんて、ふわふわした甘い綿菓子みたいなものだと思っていた。
姉の読んでいた少女漫画のヒロインはいつも嬉しそうで、たのしそうで、まるでテーマパークにいるみたいだなと思っていた。
本当の恋は、ふわふわした甘い綿菓子なんかじゃない。
四六時中たのしそうなテーマパークなんかじゃない。
会いたくて、姿が見たくて。でも姿を見ると心臓のあたりがきゅっと苦しくて。それでも見つめ続けることをやめられない。
このひとの喜怒哀楽、すべての感情が自分に向けられればいいと思う。現実的にそれが無理なことも、十五歳にもなればわかっている。
現に、自分はこのひとの過去をしらない。
この二年間どれほど苦しかっただとか、その間にこのひとが、誰にどう支えらえてきたのかだとか、自分はなにもしらない。
自分とこのひとが出会った時間は、十八年生きてきた中のたった数か月にすぎない。それでもなお、このひとの感情を揺り動かすものの大半が、自分であればいいと願ってしまう。
「るかわぁ?何ぼーっとしてんだよ。早く来いって」
公園に併設されたハーフコート。そこでスリーポイントを打ち込んでいた横顔が、自分へと向けられる。
太陽に照らされたダークアンバーの髪の毛先が光で透けている。
恋しくて、辛くて、愛おしくて、切なくて、焦がれて、自分のものにしたい。
それと相反するように、自分と関係なくただこのひとがしあわせでいてほしいと、そう祈るような気持ち。
木漏れ日が差し込むなかで。
複雑に折り重なった感情のヴェールのような心をそっと秘めたまま、十五歳の少年は小さく頷いた。
end